これがコミケ前日のコンビニ…だと?
異様な光景だ。
三角のおにぎりが互い違いに三段に高く積まれ、数秒でエネルギーをチャージできる栄養ゼリー、栄養以上のものを強制的に補給させるドリンク剤がこれでもかと陳列されている。
ここは東京・お台場の、国際展示場内にあるローソンだ。
年に2回、8月中旬と12月終わり。世界最大規模の同人誌即売会・コミックマーケット(以下コミケ)がこの地で開催される(2020年はゴールデンウィーク)。
来場者は開催三日間でのべ50万人。
ビックサイト周辺のファミレス、喫茶店、そしてコンビニは各店舗の精鋭を集めて臨戦態勢を整える。
すべてはコミケのために――。
コミケにいくぜ英雄王、コンビニでの武器の貯蔵は十分か?
2017年夏。8月10日夜。
国際展示場内のローソンは、翌日から開催されるコミケに向けて態勢を既に完了していた。
店舗横には補充用在庫の飲み物のダンボールが幾重にも置かれ、詰まれ、まるで倉庫のようになっている。
これが早朝からすぐに空になり、そして常に補充と販売が繰り返される。
2015年にNHKで放映されたドキュメンタリー番組「ドキュメント72時間」によると、国際展示場駅前にあるローソンでは一日におにぎりが約5000個売れ、売り上げは普段の約10倍にも上るという。
店員も「スペシャリスト」を揃え、約40人の精鋭で戦士たちを出迎える。
さぁ回復してやろうコミケの民よ。我がコンビニに全力でかかってくるといい
早朝、あるいは始発から戦いが始まっている来場者にとって、コンビニでの栄養補給は命綱だ。
冷たい飲み物、食べ物、から揚げ、コロッケといったレジ横フード、それらが、補充をするそばから飛ぶように売れていく。
コミケ会場の国際展示場近くのコンビニは、ローソン、ファミリーマート、セブンイレブン、デイリーヤマザキと複数存在するが、ここ国際展示場内のローソンと東館にあるファミリーマートはいわば「最終補給所」。
戦士たちの最後の砦とも言える。
ここが倒れては、戦士たちは生きていかれない。
コミケのコンビニでの待ち時間も「人生最高の10分間にしよう」
これだけの人数が来場するコミケとコンビニであれば、商品を買うのにも相当な列に並ばなければいけないのでは…?
そう思うのも仕方がない。
だがしかし店員は精鋭。並ぶのは列に慣れた歴戦のつわものども。
ある店では出入り口は一方通行となり、人の流れが決められる。
そしてその中でスムーズに商品を手に取りレジに向かう。
レジはさながら居酒屋の注文を受ける店員のごとく声がかかり、あっという間に列がさばかれていく。
多少待つことはあっても、列の人数に対しての待ち時間を考えればどうということもない。
コミケ帰りの喫茶店「大概の問題はコーヒー1杯飲んでいる間に心の中で解決するものだ」
ここで少しコンビニから視点を外して、それ以外の店にも目を向けてみよう。
コミケ会場の国際展示場とりんかい線・国際展示場駅のちょうど中間あたりにあるベローチェ有明店。
ここは、コミケ開催期間は通称「店長ベローチェ」となる。
店舗前、外でテイクアウトのコーヒーを販売するのも店長。
店の入り口で人数を確認し、フロアに手サインを送るのも店長。
例え店内が混雑していても「ただいま満席でございます。こちらでお待ちください」と、外で長時間待たされることは無い。確かに席数は多いが、すさまじい回転率でどんどん客が席に案内されていく。
「アイスカフェオレM1つお願いします」そう注文すると「アイスカフェオレ」と言い終わるか終らないかのうちにマシンが動きグラスが用意され、支払いを済ませているうちにコトンとアイスカフェオレが用意される。
レジの店員もドリンクを作るのも、そしてお盆を拭くだけの店員も皆、胸には店長の金バッジをつけている。
アイスカフェオレを受け取り、さて席はときょろりと店内を見回した瞬間「こちらへどうぞ」と案内される。
これだけ混雑しているのになぜ席が空くのか、不思議な気持ちで席に着くと、逆さにした紙コップにスッと紙が挟まれたものがテーブルに置かれる。
なるほど、この時間までにお願いしますということだろう。
しかしそれも押し付けがましくなく自然な対応ができるところがさすがに「店長ベローチェ」の対客スキルと言える。
フロアの店長はこの紙に書かれた時間をチェックし、入り口の店長と手サインとアイコンタクトのみで店内の客を回す。
すさまじくカンストした業務能力だ。
店長、あるいは地区長も集結するこの時期のベローチェは業務の熟練度が高い店員を四倍の人数集めたメンバーで構築される。
つまり、回せる力としては四倍どころではない。
もちろんこれは、店員の努力だけではなく「一杯飲んで一息入れたらスッと去ろう」という、客の協力もあってこそであろう。
コミケにおけるコンビニ問題は企業にもチャンス!
ベローチェは、精鋭による店舗回しで通常期の数倍もの来客に対応する。
コンビニ各店もまた同じく、臨戦態勢を整える。
これは「売り切れました、申し訳ありません」では終わらせないサービスであると同時に、各店舗の販売好機でもある。
3日間で延べ50万人が集まるビッグイベントが開催されるということが事前に分かっているのだから、それなりに態勢を整える。売れば売るだけ売り上げが上がるのだから、それは企業としては当然の対応かもしれない。
しかし、倉庫のように商品を用意し、盆と正月の忙しい時期にも関わらず人員をきちんと確保し対応をする、これは企業努力とサービスであると言っても過言ではない。
ローソン国際展示場駅前駅では、通常のおにぎり・飲み物などの他にコミケ期間中限定で、アニメのオリジナルグッズを販売することもある。
「魔法少女まどか☆マギカ」や「弱虫ペダル」などの人気作品だ。
店の外には横断幕、手書きPOPを作成するなど、こちらも来場客に合わせた仕様で支持を集めている。
ベローチェでは「社員が集まり店舗を運営することが少ないので、私たちもお祭りのような感じで楽しんで運営させて頂いております」(シャノアール担当者)とのことで、会場での祭りと同じく楽しみながら運営をしているといい、これはwin-winの関係になっている。
ただ商売、ビジネスという数字だけの対応ではなく企業も一緒になってお祭りを楽しむ。
これが、コミケ期間のコンビニや飲食店に多い風潮となっている。
殺人的に忙しいにも関わらず、それを楽しみに変えようとする考え方と努力は、他の企業にももう少し広まっても良いだろう。
ちなみに、2019年の夏コミケと冬コミケはそれぞれ述べ70万人を超える動員があったときく。
果たして2020ゴールデンウィークコミケはどのような戦場と化すのだろうか。
コンビニ・カフェのオペレーションからますます目が離せないだろう。